「…………」
「一言だけ言われた。行け、と。単独行動は許されないこと。それなのに、包みを…薬などが入った包みを投げつけて去っていった。
それからは、ひたすら探し続けてここを見つけた」
包帯を巻き終えて、懐紙に水を含ませ耳の傷に触れる。
芹沢鴨が、全てを知っている口ぶりだったのは、気になる。やはり、長州と繋がっていたかと考えて、そこで前川の話が進む。
「以前、小椋という男と哀音が襲われたことがあっただろう。その時も芹沢局長が話しているのを聞いて、駆けつけたのだ。
私は幾度も単独行動をしてきたが、咎められていない。芹沢局長に良いように使われるだけの駒になっているとも、言えなくはないが、それも腑に落ちない。
あの人が何者か、まだ分からぬ」
薬を耳に塗られ、鋭い痛みが広がる。
「芹沢について幹部に聞いたのは?」
痛みに耐えて言葉を発する。
「……良い話は聞かなかった。壬生浪士組の話は、どれも酷かったさ。
だが、もし芹沢局長が……悪人でないと確信をもったときがきたら…己の振る舞い方を考えなければならないと思う。
最近、幹部の様子が気になる。近々何か起きると思っていいだろう」
手当を終えて、前川の手がそっと離れる。
芹沢鴨が悪人でなかったら―――哀音はどうするのだろう。
目をゆっくり瞑り、三味線に触れる。
家族を壊したのが、長州藩士。芹沢鴨の名を使い、本名は知らない。仇を打つことはできないと、もう分かっていた。
それでも今ここで、"哀音"を辞めたら今まで手にかけてきた人、残された人はどうなるか。
その者達に殺される以外に哀音がいなくなる方法はないのだろう。
8年前、殺されていれば良かった。すべての過ちは、生きていることで。
芹沢を、芹沢鴨の名を使った長州藩士を憎み、恨んだまま死んでいれば良かったのだ。
「…哀音」
