足を止めて手に取り、雪を払ってやるとまだ振り続ける雪が簪の上にかかる。
静かに見つめて息を吸った。
『お前が進む道は、孤独でなければならない。強い者は独りで、甘えや気の緩みを見せない。独りで暮らし、独りで生きて、独りで死ぬのじゃ』
『……ずっと、独り………?』
『それが出切ると誓え。誓えばわしは、どんな事もお前にしてやれる』
師匠と呼んでいた、親代わりのおっちゃん。
家族と言って受け入れてくれた若先生。
二人の顔が不意に浮かんで、吐く息が震えた。
どうあがいても、もう遅い。8年前のあの日から、哀音の人生は決まった。今更何を変えようとも、運命という鎖が歯車を動かさぬように縛り付ける。
簪を痛いくらい握り締めて、もう一度走り出した。
