「哀音、これは?」
「襲われたから刀背打ちで気を失わせました。1人逃しましたが」
前川が目だけで小椋を教えろというので、小椋が見えるよう自分はずれながら名を教える。
「この方は小椋義春。襲われたという証言が欲しければ、この方に話を聞いてください。ただ、私はいなかったことに。これ以上面倒は避けたいし、新選組もややこしくしたくないでしょう?」
前川は頷いてから、倒れている男達に縄をかけ始める。前川が何故ここにいるのかは分からないが、上手く話をつけてくれる相手がいるのは助かる。
予想外のことが起きると、後始末が大変だ。今回のようにならないためにも、間者を殺(や)るしかないのか。
前川に視線を送ると、そのまま建物の陰へと足をすすめる。
「後のことはお任せします。この場に居なかった者は去らなければ」
足を速めて走ると、借家への道を行く。
途中、簪が積もった雪の上に落ちて、くぐもった音が聞こえた。
