「全てお見通しか、仕方ない。今日は良い情報を得られた。次は哀音、おまんを殺す」
「あなたの命の方が危ないだろう。このまま屯所に戻れば怪しまれるぞ」
「あの人が上手くやってくれる。くくっ」
1人ゆっくりとした足取りで去っていく。追えば殺(や)れる。けれど、小椋ともしかすると起きるかもしれない間者の仲間を置いて行く気にはなれなかった。
短刀を懐にしまい、小椋に向き合う。
「ご迷惑をおかけしました。怪我はありませんか?」
「いや、ない…。追わへんのか?」
「いつ起きるか分かりませんから。小椋様が襲われても良いと言うなら行きますが。
刀背打ちで気を失わせただけですし、身体の強いものは半刻もせずに起き上がり動くでしょう」
倒れた男らに目をやり細めると、小椋は一言お礼を言った。
「あんさんのお陰で助かった」
「あなたを巻き込んだのは私です。弱みに付け込まれる、そんなこと分かっていたのに。最近の私はおかしい」
人に気を許しすぎたからこうなった。
相手も馬鹿ではない。使えるものはつかう、当然のこと。
もっと冷酷に、もっと孤独に生きなければ。
