幹部の身だ、ある程度の情報が耳に入っていてもおかしくはない。
愛音が哀音かもしれないということも、知っていて当然だがあからさまなのはやはり不愉快だ。
「以前、沖田さんと斎藤さんにはお会いしました。……実際の私は想像とは違いましたか?」
「…、思ったより華奢な体をしていてな。だが、見たところ刀を使うのは慣れてそうだ」
「ふふっ、ご冗談を。私は刀なぞ使いませんよ。三味線奏者にとって手は音を奏でるために使うもの。それ以外にありません」
薄く笑い、女性らしく振る舞う。
「そうか、それは悪い。俺は原田左之助。10番組組長だ、失礼なことを言った奴とでも覚えておいてくれよ」
普通の人と変わらない笑みが、どこか違和感を与える。
「愛しい音の愛音です」
哀音も名を名乗り丁寧にお辞儀をする。
すると、後ろにいる隊士がざわついて哀音を見ようと広がった。
顔をしかめれば、原田が睨みをきかせて静かにさせた。「女が珍しいんだ」と誤魔化すように言ったが嘘だろう。あいね、と名前だけで反応するあたりはもう有名らしい。"哀音"が京で出始めてひと月も経っていないのに、さすが新選組――仕事はしているのか。
