「愛音はん、今日も演奏おおきに。とても、楽しかったわぁ」
「いつも聴いて下さりありがとうございます。足のお加減は如何ですか?」
おばあさんが、びっこをひきながら近づいてにっこりと笑った。
「わたしが足を悪くしていることも、気づいてはったの、優しいお嬢さんやねぇ。あまり歩かれへんけど、愛音はんの音が聴こえて来たんよ。今日はいつもより気分がええのよ」
「それはよかった。またここの近くに来ますから、体調に気をつけてまた来てください」
「えぇ、もちろん。……おおきに」
嬉しそうに笑った顔をさらにしわくちゃになるくらい笑を深めたおばあさんに、哀音はそっ、と彼女の手を両手で包んだ。
目を細めて笑ってみせると、おばあさんはもう一度お礼を言って帰っていった。
三味線を背にして歩き出せば、その先に浅葱色の羽織が見えた。
人々がざわめいて逃げるように去っていく。
足を止めて青を見つめる。先頭の背の高い人は会ったことのない人だ。
「そんなに俺達が珍しいか?」
背の高い人が口元に笑みを見せて問うた。
哀音は頭(かぶり)を振って否定をした。
「新選組の方は見慣れていますよ。毎日見回りをしているではありませんか。ただ、1番組でも3番組でもないようですから」
彼の目が開いて、すぐに戻る。珍しそうに見てから、納得したように一人頷いた。
沖田あたりが話したのだろう。この女か、という目で見ている。