ゆっくり歩き出すと、一度も振り返らずに去っていく。



月明かりの空の下、交わされた言葉は二人の心に深く刻まれた。




























暗闇の借家中、火も灯さずに三味線と短刀を柔らかな布の上へと置く。








「お母さん、お父さん、楓……ごめんなさい。師匠、若先生……ごめんなさい。
でも私は」







三味線と短刀を前に、膝をつき胸に両手をあて頭を下げる。






『自分の道を間違えたら、人は弱くなる。けして間違うな』




『自分の道……?師匠、それって何ですか?』




『自分が信じた道のことじゃ。自分でどんなことがあっても信じて貫き歩むのであれば、それが自分の道になる。道は山程ある。どう選ぶか。
選んだ後、後悔や道の先が見えなくなったら間違ったことになる。いいか、1度選べば戻ることは叶わん』




『……難しいです……』






『分からなければならん。お前さんがこれからするうえで分からなければ、挫折して命を絶つかもしれん』
















「この道を、選びました」













後悔しない。この先が真っ暗で何も見えなくとも、手探りで進むから。





だからどうか。














「哀の音が壊れないよう、今までの調べを信じさせて下さい」