「壬生浪士組の時、芹沢局長は今より事を起こしていた。そのせいで壬生浪士組と芹沢の名を使って悪事をはたらく輩が出ていたとのこと。
評判を悪くする、そしてその罪を被せれるということから哀音の家族を襲ったと考えられる。

訛りが先日襲ってきたやつらと同じなら、長州藩の者だろう。薩摩と長州の訛りは違うからな」








長州の者が、金もの欲しさに家族を襲った。それは偶然で、恨むのなら運命というやつなのだろうが、どうしても納得出来なかった。したく、なかった。








「ですが、結局芹沢が横暴、乱暴にしなければそんなことは起きなかった。芹沢を恨むのはお門違いでしょうけど、これは変わらぬ事実ですよね」






声がわずかに上ずり、目を伏せる。



前川から返ってきた言葉は、はっきりとしていた。










「確かにそうだ。だが哀音の家族を襲った者が芹沢局長かそうでないかによって、お前の行動も変わるのではないか」







「庇うことはしないんですね、仮にも局長ですよ?」








前川は苦笑してから、空を仰いだ。





満月から外れたところに、光る星。何度か瞬く瞬間(とき)を見届けてから、口を開く。










「庇える人じゃ、ない。あの人がやってしまったせいで、哀音じゃなくとも恨んでいる人はいるだろうさ。
……私は、見極めたい。芹沢鴨という一人の人間は、ただの悪人ではないと思う」





「根拠は?」







「……人には表も裏もある。それを知ったから、ではいけないか」








「…………それで、十分かもしれませんね」










理由などいくらでもつけられる。だけど今は、それだけで良いと思った。









星が瞬いて、川の流れる音が心地良い。