「何の話だ」
座って脇差しを置くと手入れの道具を取り出す。
何故、宮田が哀音のことを……
「そう隠すなよ。死体の傷、あれは短刀を使った時の傷だ。俺達を襲ったのは三味線奏者の愛音で、あいつは短刀を使ってる。愛しい音……いや、哀れな音に会ったんだろ?」
「落し物を取りに行って絡まれただけだ、愛音に会う為でも居場所を探る為でもない。何か勘違いをしていないか、宮田」
刀の手入れを行いながら眉根を動かさずに答える。
納得のいかない顔をしかめている宮田に、1つため息をついた。
「お前は哀音に固執しすぎだ。いくら負けず嫌いでもそんなに気にしてどうする。それに本当の哀音なら殺されている」
「前川は話したんだろう!?俺のわがままとはそういう意味じゃないのか」
"「俺のわがままだ…すまない」"
気がついて耳にしていたのか。仲間を嘘にし敵を真にすることに、負い目を感じていたから口に出ていた言葉だったのだが。
一瞬の迷いは自分を苦しめる、そして相手も。
「宮田、私は仲間に嘘を吐くことはしない。組織にいる以上、それは裏切り行為だ」
偽りは滅びを呼ぶ。偽りは裏切りを呼ぶ。
頭で何度叫んでも、自分がしていることは変わらないし変えようとも思わない。矛盾している、そうだろう。1度首を突っ込んだからには、この身が裂かれても解決したいと願う自分がいることも、やめて全て話してしまおうと言う自分がいることも気づいている。
後者を選ぶにはもう、遅いのかもしれない。
「前川、お前宛に荷物だ」
一人の隊士が小包を持って入ってきた。
