シャンパンにワインを楽しんだ後、アルコールで火照った身体を覚ます為に洋館の二階からバルコニーへと一人出た。大理石で造られたベンチに腰をおろし、ゆっくりと濃紺の空を見上げる。今日は、空気が澄んでいる。少し欠けた月がくっきりとした光を放つ。ちょうど、4日後のハロウィンには満月となりそうだ。
 
 不意に、美緒の顔を思い出した。
 彼女を励ます言葉はいくらでも口を出るけれど、その通りだねと頷くことは出来ない。美緒も美緒で、紫織にその言葉を期待していないのはわかっていた。

 だって、おとなになるっていい。じぶんひとり生かすことが出来ればそれでオーケーだ。周囲のしがらみや常識、そういうものを一瞥して鼻で笑うくらいの図々しさがあれば、自由なのだから。



(それでもどうしてかしら。贅沢だと思うのだけど、時折ひどく寂しい。迷子になったこどもみたいに、帰る場所が分からなくて泣きたくなる)