ミッドナイトインバースデイ



 小さく微笑んで、散らばった荷物をひとつづつ拾っては、汚れをはらって紙袋に入れる。ただ、黙ってそれを見ていた。彰は嘘を吐かない人間だ。それを、知っていたから彼の言葉を素直に嬉しいと思ってしまう自分に、紫織は小さく溜息をつく。これじゃ、昔の二の舞だ。成長していないにもほどがある。

 紙袋に全てを仕舞い終わった彰は、それを紫織に差し出すのかと思いきや、そうしない。怪訝に思って彼を見上げれば、彰は酷く緊張した面持ちで、紫織に向かい合った。

「やり直したいです」
「お断りします」
「そんな、一刀両断にしないでよ」
「あんたと喧嘩して、その度仕事に影響するの、もううんざりなの。良い本つくりあげるのに、気難しい作家とやりとりして、絶対面白いはずなのに部数が伸びないの上から責められて、その度頭抱えて。くだらない接待でにこにこすんのも疲れるし。これで、彰とのことで苛々出来るキャパ、もうないの。20代前半だったならまだしも、もう無理だよ。体力の限界」
「……俺、浮気はしてないよ」
「写真集担当したモデルとホテルから出てくるところ何回もスクープされといて、そんなこというか。シャツに口紅くっついてたり、ポケットにピアスしのばされてたり、香水の匂いわざとらしくうつされといて馬鹿なこというな」


 途端、泣きそうな顔をする彰をきつく睨んだ。

 カメラマンとして、入り込みすぎてしまう性質なのは、理解しているつもりだった。けれど、繰り返されるそれに疲弊して、目の当たりにするたびに、がりがりと心が削られていくのに限界を感じた。喧嘩ばかりして、きつくて、このままふたりで一緒にいる意味すら見当たらなくなった。
 きつい言葉を投げかけられる彰だって、疲れるだろう。そう一方的に決めつけて、別れたのだ。