看護士に見送られて、病院を出る。
中庭を抜けたところに、すらりとした体躯を持つ男が俯いたまま誰かを待っていた。その姿を目にした瞬間、心臓がずきりと痛む。ずっと忘れていたはずの痛みに眉を寄せ、自然と紙袋をぎゅうと握りしめていた。
(裏門から、逃げてしまおうか)
そう、思ったのだけれど、不意に紙袋に入ったルブタンが目に入る。慌てて取り出したせいで、ばさりと紙袋が落ち、中身が散乱した。
手にしたルブタンをまじまじと見つめる。自分へのご褒美に買って、誕生日に初めておろした靴だ。それなのに、随分と傷だらけだ。丁寧に布で拭ったようなのだけれど落ちきれない泥もついている。
「紫織!」
名前を呼ばれた。
ハッとなって、地面に散らばってしまった荷物を拾おうとすれば、くらりと脳が揺れて身体が傾いたのを、見た目よりも随分としっかりしている腕が支えた。
「どういうつもりよ」
「……紫織、あの……」
「いきなり、電話寄越して、こんな風に会いに来て、何考えてるの?」
彰は、紫織の身体を支えていた手にぎゅっと力を込めて行った。
「いきなりじゃ、ない。ずっと会いたいって思ってた。ただ、会わす顔がないっていうか、会ってまた喧嘩するのもきついっていうか……、怖くて、ずっと先延ばしにしてて……」
「三年だよ。わたし達、別れてさ」
「知ってる。だって、綺麗になったもん、紫織。あの頃より、ずっと」

