「……嘘でしょう」
彼らと過ごした時間は、あまりにも鮮烈で、切なくて、あたたかい。その感情ごと全部、単なる夢だっただなんて。驚きに言葉を失う。そんな紫織の様子に、医師はまだ混乱しているのだろうと結論づけた。
一通りの検査は、意識を失っている間に済まされていたのだけれど、念の為と再検査を受けさせられた。結果は全て異常なしだ。大事をとってもう一日入院したものの、翌日には無事に退院することが出来たのだった。
退院したのは平日だった。
美緒に連絡を入れれば、電話の向こうで良かったと泣いてくれた。可哀想に、紗奈は酷く責任を感じてずっと落ち込みっぱなしだという。彼女が悪い事なんて一つもないというのに。早く、出社してきちんと謝って、そしてお礼を言いたい。
美緒は仕事を休んで迎えに行くと言ってはくれたものの、雑誌編集者の彼女のスケジュール帳はいつだって予定で真っ黒に埋められている。紫織が眠りこけている間に、荷物を紙袋に纏めて置いてくれたおかげで帰り支度にも困らなかったので、丁重にお断りした。

