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目を開けて、一番に飛び込んできたのは真っ白い天井だった。ぱちぱちと幾度か瞬きする。自身が置かれている状況が把握出来ず、起き上がろうとすればやけに身体が重いのだ。そして、鈍く痛む。
ここは、一体どこなのだろう。上半身を何とか起こして、くるりと見渡す。腕に繋がれた点滴。小さなテレビ。特有の消毒液の匂い。どうやら紫織がいるのはどこかの病院の一室らしい。
「……ど、どういうこと?」
必死に思い返そうと頭を巡らす。シノブとハルの住む洋館を後にして、電話に出ようとしたところでぷつりと記憶が途切れていた。
「紫織!!!」
名前を呼ばれた。そして、病室の扉を開けて慌てた様子で入ってきた男に紫織は大きく目を見開いた。
「なんで、彰がここに……?ていうか、わたし……」
「馬鹿!だから、言っただろ!!そんな、箸くっつけたみたいなヒールの靴で歩くんじゃないって。バランス崩して階段から転げ落ちるなんて信じらんねえ」
ぎゃーぎゃーと煩い彰の声に気づいたのか、病院の医師と看護士が慌てた様子で部屋へと飛び込んできた。ベッドサイドに張り付いて、注意されても怒りの収まらない様子の彰は拘束されて別室へと引き離されていく。
そうして、静かになった病室で、ようやく紫織は事の経緯を知ることが出来た。
10月27日。紗奈や美緒が開いてくれた誕生日パーティ。紫織は、酔っぱらったあげくに慣れないハイヒールでバランスを崩し、バルコニーから庭園へと続く大理石の階段から転げ落ちたというのだ。
幸い、打撲だけで骨折等はしていないというものの、頭を強く打っていたこともあり、一向に目を覚ます様子もなく今日まで四日間昏々と眠り続けていたらしい。

