「関係性を何で決めて答えればいいか難しいね。キスすれば恋人?ハグすれば親友?同じ家に住めば家族なのか……。俺にはハルしかいないから、なんて答えればいいか分からないな」
「…そういう風に回答されたの初めてで新鮮だわ」
「そう?ただ俺は、ハルがいなくなったら、もうひとりじゃ生きていけない」
ぽつりと呟かれたシノブの言葉は、決して大袈裟ではなく真摯に響き、暗闇に溶けて消えた。
「吸血鬼って、皆そんな感じなの?」
「…なんだ、正体バレてんの」
「血は吸わないでね」
「俺、こう見えてすげー偏食でさ。紫織は全くタイプじゃないし、食指も動かないから大丈夫。ハルが望むから案内してやっているけど、もし危害でも加えようもんなら遠慮なく殺すからそのつもりでね」
シノブの言葉に心底腹が立ったところで、彼らの屋敷が霧の中に現れた。まさか、こうしてすぐに戻ることになるなんて思いもしなかった。
「紫織」
「ハル君!」
「……やっぱり、帰れなかったんですね。どうぞ、屋敷の中へ。部屋なら腐るほどあるんで、好きな場所を使ってくださってかまいません」
微笑んで、シノブと繋いでいる手とは逆の右手をとる。彼の手もまた、温度がない。心臓に耳をやれば、きっと彼と同じくぴたりと時をとめているのだろう。
「これから、屋敷の中を案内します」
「ありがとう」
「どうぞ、こちらへ」
ふたりに手を取られたまま、屋敷の中を案内される。ベネチアンガラスのシャンデリアがつるされた大広間、白いタイルが基調の洒落たシャビーシックなキッチン、基調な古書ばかりを集めた書斎、地下にある巨大なワインセラー……、長い月日をかけて構成されたそれらはどれもこれもが紫織の心を擽るものばかりだった。
「自由に使って頂いて構いません。シノブは収集するのが趣味で、色々集めてはみるんですが、どうにもすぐに飽きてしまうらしくて。飾るだけでは勿体ないですから」
「…そんな、」
「本当に、遠慮しないで。10年でも20年でも、自分の家だと思って自由に過ごしてください」

