ミッドナイトインバースデイ



「ふたりは、一体……」
「紫織は絶対怖がるから、内緒」

 シノブが楽しそうに笑った口元からちらりと見えたのは、鋭く尖った犬歯。まさか、まさかーー
 それが彼らの正体を導きだそうとするのを、必死に食い止めた。今の紫織には帰る手段がない。このまま歩き続けたところで、出口にたどり着くのも難しいだろう。

「…お願いします」

 ぺこりと頭を下げた紫織に、シノブは破顔した。逃がすまいと、紫織の手をぎゅうと握りしめて、「よかった」と言った。

「どうして、そんなに嬉しそうなの」

(もしや、このまま血を吸われるんじゃなかろうか…)

 そんな紫織の心配をよそに、くるりと振り返ったシノブは、まるで当然だと言わんばかりに「ハルが望むから」と答えた。

「それだけ?」
「他に何があるっていうわけ」
「あなたたち、恋人なの」

 紫織の問いに、シノブがきょとりと首を傾げた。男二人(…人間じゃないにしろ)こんな辺鄙な洋館に住んでいる。ハルのことはよくわからないけれど、つい先程の様子からもシノブが彼によく懐いているのはわかる。

 同性とはいえ、彼らの関係は単なる友人というには些か距離が近すぎるように感じた。同僚の美緒が雑誌編集で関わるモデルの中にも、そういう性的嗜好を持つ人間は多くいる。特段驚く話でもないのだが。