ハルにつれられたのは、最初に案内された部屋とは異なる場所だった。ガラス張りのサロンルームで、真正面からは庭に咲き誇る真っ赤な薔薇をぐるりと見渡すことが出来る。グランドピアノに本棚、ふかふかと座り心地の良さそうなソファが並んでいる。
「シノブ」
ピンと張った白いシャツに黒のスラックス。とてもシンプルな装いであるのに、華やかな美貌も相まって上品にうつる。初対面で首を絞められるという非常識な目に合いながらも、やはりシノブという青年は驚くほどに美しかった。
琥珀色の瞳が、紫織を見定めるように上から下まで視線を数度行き来して、きゅうと細められる。
「まじで、人間なの?」
「最初っから疑問でしたけど、他に何に見えるわけ。そんな風に聞かれるの生まれて初めてだわ」
「……いや、まあ、そうなんだけど」
すらりと長い指がゆっくりと伸ばされた。先程、首をしめられたおかげで咄嗟に瞼をぎゅっとつむった。けれど、苦痛は訪れることはなく、すっかり外すのを忘れていたハロウィン仕様の猫耳が、紫織の頭上でふにふにと遊ばれている。
ソファに座るよう促され、そのまますとんと腰をおろす。紅茶の淹れられたティーカップを礼を言って受け取る。同じように紅茶に口をつけながら、ハルはゆっくりと紫織を見た。
「あなたの名前を伺ってもいいですか?」
「……香坂紫織です」
「僕は、ハル。そして、こちらがシノブです」
「どーも。さっきはごめんね」
まるっきり悪びれた様子のないシノブに小さく苛立つも、ぐっと飲み込んで小さく頭を下げる。
「それで。どうやったら、この屋敷までたどり着けたわけ?本当に"ただの"人間なら、決して踏み入れることは出来ないはずなのに」
「すみません。さっきから気になってたんですけど、その人間っていう風に人をカテゴライズするのなんなんですか?それじゃあ、まるで…」
(あなたたちふたり、人間ではないと言うみたいだ)
ぞくりと、背筋が冷えた。
そんなまさか。小さく頭を振った。彼らは、どこからどう見ても人間だ。

