ミッドナイトインバースデイ

 


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 引き吊り上げられるように、うっそりと目を覚ました。ハッとして起きあがろうとすれば、ずきりと首筋に鈍い痛みが走った。瞬時に、気を失う前のことが脳裏を過ぎる。

 生きていた。てっきり、あのまま首をへし折られて殺されてしまうかと思ったのだけれど。視線だけ動かして周囲を伺う。紫織は、ゲストルームだと思われる一室のベッドに寝かされていたらしい。ぱさりと手元に落ちたのは、首もとを冷やすのに使われていた白いタオルだった。

「起きましたか」
「…ひあっ」
「具合はどうですか?」

 こてりと首を傾げたのは、先ほど自分を殺そうとした男にハルと呼ばれた少年だった。

「……首が痛い」
「へし折られる前に止められてよかったです。ぎりぎりセーフ、でしたね」

 にこりと口元に笑みを浮かべ肩を竦めるハル少年に、ぽかんと口を開ける。確かに、その通りだ。いや、けれど、何かおかしい。変だ。そもそも、彼に招かれて入ったはずの館内で、なぜ殺されそうにならなきゃいけないのだ。

「セーフじゃないでしょう」

 さりげなく物騒なことを言うハルに思わず声を上げた。どうにも、この屋敷にいる人達の台詞はどこかずれている。呟かれるひとつひとつが、どうにも引っかかって仕方がない。

 大体、古めかしくも広大な屋敷にはシノブとハルという人間以外はいないのだろうか。使用人のひとりやふたりいなければ、とてもじゃないが管理もままならなそうだ。

「先程は、シノブが失礼しました。少し、誤解があったようで、改めてお詫びがしたいと言っています。具合が大丈夫であれば、お付き合い頂いてもよろしいでしょうか?」

 お伺いを立てているようで、ハルの言葉には有無を言わさぬ力がある。引っ張り上げられるように、ゆっくりとベッドから起きあがった。ほんの数時間前にたらふく飲んだアルコールのせいでだるさの残る身体に、これが現実であることを突きつけられる気分だ。