―美緒がいたら、迷わずスカウトするんだろうな。
こんな状況だというのに、どこか呑気にそんなことを考えてしまう自分に内心苦笑した。
「ハルー!」
「やめてください」
少年の姿をそのトパーズの瞳に映した瞬間、抱きついた美青年がそげなくされてぺしゃっと床へとたたき落とされたのだ。唖然。
ハルと呼ばれた黒髪の少年は、抱えていた大輪の薔薇を窓際に置いてあった白磁の花瓶に活ける。そうして、情けなく口を尖らしているシノブというハチミツ色の青年に眉を寄せた。
「大変です」
「どうしたの、ハル。何か困ったことでもあった?」
「僕は困ってません。この人が……」
「……あの」
思わず口を挟んだ瞬間、先ほどまでくるくる変わっていた表情が一瞬にして色をなくす。美形だからこそ、無表情になると妙に迫力があり、怖いと思った。
「誰?この猫女。ハル、どうして屋敷に入れさせたの」
「違うんです、この女性は……」
「……この屋敷に許可なく足を踏み入れるなんて、随分と図々しい真似が出来たもんだね。餌(え)になりにきたか」
「あの、私、」
弁解する猶予も与えられず、一瞬で首を片手で掴まれる。ぎりぎりと締め付けられる苦痛に、じわり、涙が目尻に浮かんだ。この人おかしい。絶対に、頭おかしい。やばいところに来てしまった。
「いい加減に、人の話を聞けー!」
「ふぎゃっ」
遠のいていく意識の中で、紫織は蛙が踏みつぶされるような情けない声を聞いた。

