学園祭の立て看板が置かれた門の前で、入る事を躊躇(ためらう)ように頭を掻く桐島。
ポケットから、拾った御守りを出して見詰めると、意を決したようにキャンパスへと入って行った。




オリジン寮では、いつの間にかテーブルに湯呑みと茶菓子が置かれ、ママとレイコの話しが続いていた。

「そんな事がねぇ。で、美沙は大丈夫だったの?」

「大丈夫よぉ。イケメンが助けてくれたって言ったじゃない」

「そうじゃなくて」

ママはレイコの言いたい事を悟ったように、少し表情を曇らせながらも力強く言った。

「大丈夫。今のあの子なら」

「そんな言い切っていいの? 人の心なんて浮き輪みたいなもんなんだから、許容を越えれば簡単に沈んじゃうよ?」

「大丈夫よ。昔と違って、今は女である自分の事を、好きになりつつあるもの」

「うん。それは私も感じてた」

「少しかもしれないけど、重荷が取れた分軽くなったはずでしょ?」

「確かにね」

安心したように微笑みながら言うレイコ。

「そういえば、その美沙は?」

「大学の学園祭よ」

「そっか、今日だっけ?」

「そうよ。でね、見に来てくれって誘われてんの」

「あぁ、例のガールズバンド?」

「うん…」

曇りがちな表情のママに、レイコは構わずといった感じで立ち上がり言った。

「行こう! まだ間に合うでしょ?」

「レイコちゃん…」

「さ、立って。髭そりな」

「言われなくても剃るわよ」

「ふふ。恥じらいを無くしちゃ女じゃないもんね?」

「うん。…そう、そうなのよ。私は女。堂々としてればいいのよね!」

両腕をバシバシ交差させ気合いを入れるママは、実に力強く男らしくものであった。