オヤジン寮の広間にあるキッチンで皿洗いをしているママ。
タオルで手を拭き作業を終えたママが、テレビを見ながらソファーで寛ぐレイコの元へ来て座る。

「どうなっちゃうんだろうね?」

「さぁね。私の理解を超えてるわ」

「そうね。でも、美沙が選んだ事だから」

「理解出来ないのは彼の方よ」

「…うん。でも、彼が一番苦しんでるかもね」

ママの言葉にレイコは反論せず、それ以降は何も言わずに、男性アイドルが躍動するテレビに集中した。
二階の自室に戻った美沙は、携帯電話に着信が有ることに気付き直ぐ様に掛け直したが、電話の向こうから一方的に話されて電話が切れる。

「今すぐ来いって…。どこに?」

美沙が困惑していると直ぐにまた電話が鳴った。
一階広間では、ついさっきまでの重苦しい空気から一変して、テレビを見ながらキャッキャと盛り上がっているママとレイコの姿があった。
二階から美沙が降りてきて広間に顔を出す。

「皆の所行って来る」

「今から? 送ってこうか?」

「大丈夫。近くのカラオケボックスだから」

「そう? 気を付けてね」

美沙は急ぐようにして小走りで出て行った。


暗い部屋で由依が熱唱している某カラオケボックス。そこに美沙が到着して部屋へ入った事で、気付いた由依は歌うのを止めて美沙に駆け寄り、それに続くようにルカと玲美も歓迎して迎え入れた。

「由依? 何か口が…?」

「あぁ、ちょっと待って」

由依が照明の明かりを操作して部屋を明るくしたその瞬間。

「えぇー! 何してんの?!」

由依はお歯黒状態で、ルカは唇と鼻に青のりを付け、玲美は黒い墨のようなものを口を囲むように円を描いて付けていた。

「うそ? 玲美? どうしたの?」

「えっ?」

玲美は由依とルカが堪えるようにクスクスと笑っているのを見て、まさかと言う感じで慌ててバックから鏡を取り出して顔を確認し、その場に崩れ落ちた。

「ギャハハ!」

「玲美。気付いてなかったの?」

「ノンアルコールだからとビールを飲まされ、口回りに泡が付いてるから拭いてあげると言われパタパタと。それがまさか、こんな事に…」

「特注の、墨付き布巾だ!」

「お墨付き!」

「ひどい!」

「…皆、何やってんの?」

「いやぁ、この店がさ、何でも持ってくんだよ」

確かにそう。一番のいたずらっ子はこの店そのものかも知れない。