オヤジン寮から美沙と、長身の格好いいお洒落な男性が出てくる。二人はとても仲が良いようで終始笑顔を絶やさず歩いて行き、寮の近くの駐車場に来ると四人乗りの赤いスポーツカーに乗り込んで、お洒落な男性の運転で出発する。
寮では眠たそうに欠伸をしながら広間で新聞を読むママの姿があり、そこへ猫の絵が所狭しに描かれたパジャマを着て、頭にタオルを巻くルカが加わりママに言った。

「あいつは? 何か出掛けるみたいだったけど」

「タイちゃん? タイちゃんなら美沙ちゃんと一緒に出掛けたわよ」

「はぁ? 何で美沙と一緒なの」

「目的地が同じなんだって」

「どこ?」

「撮影スタジオ」

「スタジオって、本業の?」

「ええ」

「でも何で美沙まで? モデルでもやるの?」

「モデルをやるのは桐島君よ。美沙はそれを見学に行くの」

「へぇー。あいつモデルなんてやってたんだ」




狭い路地から公道に向け、これでもかと言う程慎重に運転するタイちゃん。やがて車は瀬野のマンションの前に辿り着き、そこで待っていた桐島を美沙が車から降りて出迎えた。

「ごめん、遅くなって」

「あ、ああ…」

「乗って」

桐島は運転席のタイちゃんを見て乗るのを躊躇うが、それを見た美沙に腕を引っ張られ、半ば強引に乗せられてしまう。
桐島の反対側から美沙も乗り込み、タイちゃんはバックミラーで二人を確認して、その時ミラー越しに桐島と目が合って笑みを見せるが、桐島は軽く会釈をするだけでどこか落ち着かない様子であった。タイちゃんはそんな桐島を笑顔で確認し、車を発進させる。

「あっ、紹介するね。電話でも話した同じ寮に住んでるタイちゃん」

「ん、ああ…」

「お店の方が一応副業なんだけど、店にはほぼ毎日出てて、たまにこうして撮影の依頼が入るんだって」

「そうなんだ…?」

「うん」

「信じてない?」

タイちゃんの声はルカとは違い男そのもので、事情を知らない人はその風貌も伴って間違いないなく、普通のイケメン男性だと思うだろう。

「いえ、別に…」

タイちゃんは両手でしっかりハンドルを握りながらも、不適な笑みを浮かべてはミラー越しに桐島をチラチラと覗き込み言う。

「しかし可愛いね? 美ーちゃんの彼氏じゃなかったら僕が貰ってたのに。あっ、まだ彼氏じゃないんだっけ? 今なら別に手を出しても浮気にはならないよね? 出しちゃおうかなぁー。シャイな男もいいよねぇ。むしろその方が燃えちゃうかも! なんちゃって」

「運転に集中して!」

「はーい。怖い怖い」

「…今、やっと信じれた気がする」

そんなこんなで、三人は桐島の仕事場でもある某撮影スタジオへと向かった。
どうでもいいけど、喋る度にいちいちスピードを落とすタイちゃんの運転のせいで、ついにはラジオでも渋滞情報として上がる程後続が混んでいる事に、このお喋りは何とも思わないのだろうか。…ったく。