翌日早朝。
広いリビングには一見して豪華な物と分かるインテリアや家具。それもあってか、当たり前の朝食の風景も必然として優雅なものと感じさせられる。
大理石と思われるテーブルをもて余すように離れて座るのは、父親と思わしき貫禄ある人物と玲美。

「そろそろ、真剣に考えてみてはどうだ?」

「何をですか?」

紅茶を一口飲んでそっと置く玲美はとても無愛想で、それに対し父親らしき人物も憮然として続ける。

「いい男だと思うがな」

「会われた事もないお方が、何故分かるのでしょうか?」

相手を馬鹿にするように澄まして言う玲美のその態度に、父親らしき人物も流石に我慢の限界のようで、テーブルを強く叩いて怒鳴った。

「いい加減にしろ! 何だその態度は!」

「お父様は! …私の事を、どう思っているのですか?」

「何を急に? お前は私の娘で、それ以外のなにものでもない」

「それだけですか?」

「他に何が有ると言うのだ?」

「約束が有りますので失礼します」

怒り混じりにそう言って玲美は立ち上がりドアの方へ向かうが、父親がその歩みを止める一言を放つ。

「私は、お前を本当の娘だと思っている。それだけは忘れないでくれ」

願うような父親の言葉に、玲美は目を閉じ息を吐く。そして、ドアノブに手を掛けて言った。

「有り難うございます」

淡々とした言葉を残し、玲美はドアを締めて出て行った。その様子に父親は肩を落とし、溜め息と同時に目頭を押さえる。

落ち着いた雰囲気の部屋に玲美が入って来る。暫く佇み、そして机にむかい、そこに飾られてあった写真立てを手に取り思いを巡らせる。

「…分かってるよ。お母さんの言いたい事。分かってるけど…、目の前にすると駄目なんだよ」




高級マンションの最上階。瀬野の部屋で出掛ける支度をしている桐島に、家主の瀬野がにやけた顔で声を掛ける。

「美沙ちゃんとデート?」

「いや、今日はモデルの仕事」

「ふーん。その後は?」

「その後?」

桐島は少し考え答える。

「食事でも、誘ってみようかな」

「だったら最初から一緒に行けばいいじゃん?」

「えっ…? 仕事場にか?」

「ああ。お互いを知るためには良いんじゃない?」

「そう…か」

「自分をアピール出来るチャンスにもなるしな」

「そうだな。誘ってみるよ」

携帯電話を取り出して電話を掛ける桐島を、瀬野はどこか寂しい目で見ていた。