動きをなくした美沙が作る緊迫した時間を、固唾を飲んで見守るレイコとルカ。

「行こうか?」

「えっ!?」

「食事」

「あっ、うん」

桐島は何事も無かったように歩き出し、美沙は困惑した表情を見せながら並んで歩いて行った。
レイコとルカは腑に落ちないといったように顔をしかめ後を追う。

「アイツもしかして、天然?」

「うーん。天然て言うより、正直なのよ。バカが付く程にね」

「成る程な」

並んで歩く桐島と美沙のその様はどう見てもカップルであり、楽しげに話し掛ける桐島に美沙も徐々に表情が緩み笑顔を見せるようになる。

「レイコ」

「なーに?」

「帰ろっか?」

「あら、いいの?」

「うーん。なんか、腹へった」

「ふふ。そう? じゃあ、ラーメンでも食べて帰る?」

「おっ、いいね! 行こう行こう」

ルカは少し名残惜しそうに桐島と美沙を見て、二人とは反対の方へ歩き出した。

「大丈夫よ。美沙は何処にも行ったりしないから」

「うん…」

「うわーい。このお姉ちゃん泣いてるー」

近くに居たガキんちょがルカを茶化し、それを見ていたレイコが慌ててルカを諭してはガキんちょを追い払おうとする。

「こら! あっち行きなさい! 殺されるわよ!」

「鬼か私は? ガキの言う事なんかいちいち気にするかよ」

「まぁ、そうよね」

「わーい! ゴリラだー!」

「ホントだ! ゴリラだー!」

ガキの仲間が数人現れて、揃ってレイコを指差し悪口を言う。

「おい。そのへんにして逃げた方がいいぞ」

「誰が逃がすかー!!」

レイコは鬼の形相でガキんちょ達を追いかけまわす。最初は笑いながらふざけて逃げていたガキんちょ達も徐々に顔が強張り、離れていた距離が縮まるにつれて泣き出す者も現れはじめた。そんな状況に、呆れ顔のルカが呟く。

「少子化の原因はお前か? レイコ」

これが後に子供達の間で語り継がれる、子供を狩る悪魔のハンターゴリコ、誕生の瞬間である。