揺れて恋は美しく

天井から吊るされた照明と、ステージ上や脇から放たれるその色とりどりの光が、その空間に幻想を生み出し人を魅了する。

幾つもの照明をぶら下げる矢倉が大きく揺れ、それに合わせ照明も、繋がるコードを支えに揺れ動く。

「何だ?!」

その異変にいち早く気付いた瀬野は顔をしかめながらも、さっと女性を自分の方に引き寄せた。

「私なにもしてないよ…」

「大丈夫。分かってる」

瀬野と女性は息を飲んで耐えるように、鉄組の柱をじっと見詰める。やがて徐々に揺れは収まっていき、なんとか最悪の事態は間逃れたように思えた。

「なに? 何が起きたの?」

「分からないが、念のためここから離れた方がいい」

「あなたは?」

「演奏を中断させる」

そう言って瀬野がステージに向かおうとしたその刹那。鉄組の柱から突然キンと音を立ててボルトが一つ弾け飛んだ。

「キャァ!」

「おいおい…」

耳を塞ぎ座り込んでしまう女性だが、その現実は休息を許さず進み続ける。
鉄組はギシギシと音を上げてまた一つボルトを飛ばし、同時に今度はバランスも崩す。

「やべぇ…。逃げろー!!」

ステージに向かって叫ぶ瀬野だが、スピーカーから放たれる音にかき消されて声が届かない。

「君も早くここから離れろ!」

女性は這いつくばって進み、なんとか立ち上がると走り去って行った。一方の瀬野はステージへと上がり、客席がどよめくなか演奏を中止させて避難を呼び掛けた。

「瀬野、さん?」

「早く逃げるんだ!」

「あんた誰? 美沙の知り合い?」

ルカが瀬野に詰め寄ったまさにその時、矢倉の片方が音を立てて崩れ、激しく揺れる照明の一つがステージ上に落ちた。

「キャァー!!」

粉々の照明は奇跡的に誰もいない所に落ちた。
混乱と恐怖で動きをなくす美沙達四人と、まだ多くの人が現実を受け入れられないようで騒然とするだけの観客。

「レイコちゃん!」

「おうよ!」

「俺も行く!」

他の者達とは違いこの三人だけが、ステージ上の美沙達の身を案じ救出へと向かった。そして程なく、二つ目の照明が地上へと放たれた。