揺れて恋は美しく

特別会議室と書かれた部屋の扉が開き、そこから背広を着た数人の年配の男達が出て来る。それを待ち受けていたかのように、ドアの前で別の男達が深々と頭を下げて見送る。
そして、年配の男達が居なくなると、頭を下げていた男達が雪崩れ込むように部屋へと入って行った。
部屋の中では窓際に佇む瀬野が居て、男達は瀬野を取り囲むようにして集まった。

「社長」

「大丈夫だ。桐島代表も力を貸して下さると言ってくれた」

それぞれが言葉や仕草を用いて喜びを表現する。

「よかったぁ…」

「喜んでばかりも居られないぞ」

一同は顔を引き締めて、険しい表情の瀬野を注視する。

「今回の件。君達はおろか、僕も全く気付けなかった。何故だ?」

「…見落とし。でしょうか?」

「確かにその可能性も拭えない。だが、これだけの人数が居て誰一人気付けなかった」

「経理課の者としましては、見落としなど到底考えられません」

「それならウチもだ。ちゃんと私が目を通して請求を出している!」

「私の所も同じだ!」

「経理課の責任だろ!」

「まぁ落ち着け。僕が言ってるのはこうゆう状況だと言う事だ」

互いに睨み合いながらも、瀬野の言葉に落ち着きを戻す一同。そしてその中の一人が瀬野に、恐る恐る口を開き尋ねた。

「誰かが、嘘を…?」

お互いの顔を見合い騒然としだす。

「いや僕はむしろ、もう一つの方だと思う」

「もう一つ、と言いますと?」

「第、三者の仕業」

更に騒々しさを増すなか、瀬野は思い立ったようにドアの方へ向かっていった。

「君達は先に帰っていてくれ」

「しゃ、社長!」

足早に急ぎ広い通路を行く瀬野の表情は一層険しく、今までにない恐怖のようなものすら感じてしまう。

「狙いは、この俺様か…。或いは、桐島グループ本体か?」

険しい表情で呟きながら考えを巡らせる瀬野。ロビーから外に出ると、走ってくるタクシー目掛けて手を上げる。

「何れにしてもまずいな。 俺との関係が知られれば、美沙を巻き込んでしまうかもしれない」

今度は緊迫した表情で、瀬野はタクシーを止めると急ぎ乗り込んだ。