顔を確認しようと振り返ることはしなかった。
私は下を向いたまま聞こえるかどうかも分からない小さな声でそう呟く。
すると私の右手首を掴む力は少しだけ弱くなった。
「…いいよね、あんたは……」
そう言葉を落とした瞬間、涙がこぼれ落ちた。
「着ぐるみ着てるからなーんも喋らなくていいんだもん。顔だって見せなくていいんだもん。
私……バカだよね。どこの誰かも分からないあんたと会うのが楽しみになっていて、いつの間にか好きになっていて……。
こんな男みたいな格好して恋とか…、ほんと笑えちゃうよね、こんなんであんたの恋愛対象になろうとかふざけてるよね。
私……自分の顔が、性格が恥ずかしい。
全部隠しちゃいたい」
……こんな事言うつもりなかったのに。
でも一度開いた私の口は止まることを知らなかった。
「……まぁあんたもクリスマス終わったら着ぐるみなんておさらばだろうし、私はもうあんたと話すこともできなくなるんだから………さ。
今日で最後にするね」
そう言って右腕を強く振り上げると掴んでいた手はいとも簡単に振りほどけた。
もう私を引き止めるものは何もない。
「今まで楽しかった、ありがとう。
ばいばい」