「…父さん」

「京、陸。ごめんな、俺は…」

「――遅ぇぞ、馬鹿旦那。愛梨をいつまで待たせる気だ?」

不意に割って入った声に振り向くと、愛梨の部屋の扉に寄り掛かる悠梨の姿があった。

「珍しいな、お前が俺のこと旦那だって認めるようなこと言うなんて」

皮肉げに軽口を叩くと、悠梨はこれまた珍しく満面の笑みを浮かべた。

「そうか、そうだな。今からでも遅くない、愛梨には俺から離婚するよう勧めておくよ」

「え、あ、ちょっと待てこの兄馬鹿!それと、愛梨は俺のだ!」

二人の息子の間を擦り抜けて悠梨に詰め寄るも、するりと身を躱された。

「黙れ親馬鹿。だったらさっさと愛梨にその情けない阿呆面見せてやれっ」

「わ、おま、ちょっ…」

悠梨の手に突き飛ばすように背中を押され、周は前のめりに愛梨の部屋の中へと縺れ込んだ。

思い切り頭から転ぶ瞬間、横目で呆れたように首を振る京と困ったように悠梨と顔を見合わせる陸の姿が見えた。

「いでっ!!」

みっともなく床に倒れ込んだ周を労るように、その金の髪を細く白い指がやんわりと撫でる。

ゆっくりと顔を上げると、四年振りに臨むことの出来た桜色の双眸が愛おしげに周を見つめていた。

「愛、梨」





覚醒と糾明の果て 終.