いとしいこどもたちに祝福を【後編】

――四年前。

記憶を奪われてから、初めて目覚めたとき。

暗く狭い部屋に独り閉じ込められて、ずっと泣いていた。

誰を恋しがっているのか、記憶と言葉を失った自分は訳も解らず泣き喚いていた。

ずっとずっと泣き続けているうちに、涙が出なくなって、どんなに泣きたくなっても、泣けなくなって。

自分の眼に父の面影を見付けた架々見に殴られる度に、恐怖心すら次第に薄れていって。

感情の起伏自体が希薄になってしまっていたが、そんなこともどうでも良くなっていた。

だから涙も、あのとき一生分流して枯れてしまったのだろうと思った。

――だけど充のお陰で、月虹から脱出して炎夏に逃げ込んで。

逢いたいと願っていた晴海と出逢えたことに心底驚いた反面、言葉にし難い程の歓びを感じた。

秦に晴海を傷付けられ、腕の痛みを忘れる程の怒りを覚えた。

仄や夕夏と賢夜と触れ合い、“家族”と過ごす愉しさを知った。

慶夜から晴海を守り通せなかったことが、堪らなく、つらくて悔しかった。

晴海の傍にいられることが、嬉しかった。

自分の出自が分からないことが、その途端に堪らなく怖くなった。

それはまるで、零れ落ちていってしまった感情たちが少しずつ戻ってくるような感覚で。

それでも、やはり涙だけは出なかったけれど――春雷に戻って来てこの場所で父と心を通わせたとき、それまで重苦しかった心が少し軽くなったような気がした。

その頃には、以前よりも沢山笑えるようになったと自分でも驚く程だった。