「いっいいいいいい、いいっ」

ぶんぶんと精一杯首を振ると、陸はくすくすと笑いながら身を離した。

「姉ちゃんにちょっかい出すなっ!!てか陸おま、性格豹変してねえか?!」

「そうか?俺が知ってる陸は元々こんなもんだがな」

「ああ、悠梨さんは記憶のない陸に逢ってないんだ。確かに今より少し大人しかったかもね」

「んー…俺、自分では良く分からないけど」

陸は周囲の意見に苦笑しながら、かくんと首を傾けた。

要するに、記憶が戻ったことで性格も陸本来のものに戻ったということなのか。

「…とにかくっ、俺はそう簡単に姉ちゃんを渡したりしねえからな!」

「そっか…まあ、俺もそう簡単に引き下がったりする訳ないけどな?」

「ちょ、ちょっと待って二人共っ、こんなときに喧嘩なんてしないで…!」

周や京や悠梨の目の前で、恥ずかしい――

「よお…何だか物凄ーく何処かで見たことのある光景だな?悠梨」

「何処でだ?俺は初めて見るぞ?なあ、京」

「そんなところ父さんに似なくていいんだよ、陸?」

周は溜め息をつきながら苦笑したが、悠梨はしれっとした顔で首を捻って、その傍らで京が呆れ気味に肩を竦めていた。

…どうやら見馴れた光景だったらしい。





安穏(あんのん)に際立つ懐疑 終.