盛大に狼狽(うろた)える晴海に対し、陸は不思議そうに首を傾げた。

「りく、てめ…姉ちゃんに何してっ…!!」

「だって晴、あのとき俺のこと好きだって言ってくれたじゃないか。俺も晴が好きだし。両想い、だろ?」

「あの、とき、って」

『りくは…っ!私の好きな陸はっ…あんなこと平然と言える人じゃないよ…!!』

あのとき咄嗟に口走ってしまった、言葉のことか――

「俺、ちゃんと聞こえてたよ。凄く嬉しかった」

(あああああああああ)

「それに風弓は、炎夏で俺と晴のこと認めてくれてたんじゃないのか?」

「はあっ?!」

「だって晴が溺れたときに、俺が人工呼吸するの止めなかったじゃないか。それに、晴の傍にいてやれって」

(人工呼吸っ?!)

「あれは一刻を争う第一級緊急事態だったから仕方なかっただけだっ!!それに傍にいろってのは、親父と俺の代わりにだって言ったろうが!?」

「ちゃんと事前に確認取ったろ?なのに今更そんなこと言われてもな」

いや、そもそも二人は自分の知らないところで一体、どういう遣り取りをしていたのか。

「ていうか陸、人工呼吸って何のこと…?」

「ん。再現しようか?」

陸はにこにこと兄顔負けの満面の笑顔を浮かべながら、つと晴海の目前まで顔を寄せた。