「――馬鹿言え、あいつは俺のだ」

不意に降ってきた架々見とは別の低い声に、晴海は弾かれたように顔を上げた。

声の主はこちらに背を向けていて顔が見えなかったが、長身痩駆の男性で――少し癖のある髪は銀色であった。

「お前は…っ」

「すっ込んでろ、変態」

架々見がその姿を認めて眼を見開いた瞬間、男は架々見へ回し蹴りを食らわせた。

蹴りと同時に凄まじい風圧が起こり、架々見は壁際まで一気に吹き飛ばされる。

「ぐあぁっ!!」

「架々見様っ!くっ…香也!!」

突然の乱入者に慌てた如月が声を上げるとほぼ同時に、香也がこちら目掛けて飛び出した。

「よぉ、おっさん。何処の誰だか知らないが俺とも遊んでくれよ」

「餓鬼が、調子に乗んなよ」

振り向いた男性が翳した掌から発生した風の渦が、晴海と風弓の脇目を掠めて香也に直撃した。

「ち…っやっぱまだ無理か」

香也は自嘲気味に舌打ちをしながらくるりと受け身を取った。

「あ…貴方、一体っ…」

風弓と共に、一連の遣り取りを唖然としたまま見つめていた晴海がおずおずと声を掛けると、男性は陸よりも淡い紅色の眼を少し細めた。

「話は後だ、行くぞ」