「どうした陸、出来ないのか?才臥の息子を助けるためならば何でもする、そう私に言ったのはお前だぞ?忘れたか」

陸は堪らず架々見から視線を逸らすと、俯いて懸命にかぶりを振った。

「架々見っ…!!お前はどれだけ弟の心を傷付ければ気が済むんだ!!」

「もっともっと傷付いて、壊れてしまえ」

愉快げだったこれまでとは打って変わった低い声色で、そう囁いた架々見を京は信じられないものを見るような眼で睨み付けた。

「っ……貴方は、どうして…」

恐怖と怒りとが綯(な)い交ぜになって、身体の奥底から強烈な震えが込み上げてくる。

「誰かから奪ったり壊したりすることしか出来ないの…?!陸も父さんもこの国も、貴方の道具なんかじゃないのにっ!!」

懸命に絞り出した叫び声を浴びせると、架々見は憐憫の笑みを浮かべてこちらを見下した。

「…小娘、私が憎いか?父と片割れを使い捨てられ、愛しの陸を奪われ、さぞ私を殺したいだろうな」

「姉ちゃん、聞くな!!」

「何の力も持たない、無価値で無力な小娘…憐れなお前には出来ることなど何一つ有りはしない。誰かに助けを請うて、他人が解決してくれるのを待つばかりだ」

解っている。

けれど架々見の挑発に、何も反論出来ないのが悔しい。

「結局、威勢が良かったのも口先と目付きだけか。それも最初だけだったがな」

「っ…!」

無意識のうちに涙が溢れるのを堪え切れず俯くと、架々見は狂ったように高笑いを始めた。

「そうだ…そうやって全てが私の手中に落ちるのを、成す術もなく眺めているがいい!まずは次こそあの春雷を陥落させてやろうっ…じき愛梨も私のものになる…!!」