「…だめ……」

『兄と弟で殺し合い、か』

時計塔での香也の憫笑が、頭の中で谺(こだま)する。

『兄弟同士で争わせるなんて、そんなの残酷過ぎる…絶対に許せない…!!』

慶夜の手によって傷付けられた賢夜の姿を目の当たりにし、怒りに震える京を思い返す。

「だめだよ、陸……っ」

あれ以来ずっと目覚めない賢夜と、憔悴し切った様子でその傍に寄り添う夕夏。

また陸を守れなかったと打ち拉(ひし)がれる周に、夕夏と同じ想いをさせるつもりか――

「陸、お願いだからやめて…!」

震える声で嘆願するも、陸はまるで何も聞こえないかのように虚ろな瞳で京を見据えている。

「無駄だよ、才臥の娘。この子は私の命令しか聞かない」

「っ…!」

炎夏で一緒に過ごしている間に、困ったり悩んだり喜んだり、色々な顔を見せてくれるようになったのに。

春雷で家族と再会して、漸く翳りのない笑顔を見せてくれるようになったのに。

それらの表情が全て消え去ってしまっていて、あの綺麗な緋色の眼は暗く淀んでいる。

「晴海ちゃん!!」

言うが早いか、ばちんと空気の爆ぜる音が辺りに響き渡る。

「なっ…」