いとしいこどもたちに祝福を【後編】

――思わず名前を叫んで咄嗟に両腕を伸ばしたのと、相手が弾かれたように顔を上げたのはほぼ同時だった。

伸ばした両手がその頬に触れた瞬間、闇の中では朧げだった視界が一気に鮮明になる。

驚愕と困惑とが入り交じった表情で青灰色の眼を見開いた青年に、晴海は構わずそのまま抱き着いた。

「風弓…!」

自分と同じ赤み掛かった茶髪に、父譲りの眼の色。

記憶にある弟よりも、四年を経て顔付きや体格は幾分大人びているが――それでもやはり、間違う筈がない。

「ち、がう」

しかし青年はゆっくりと首を振りながら、晴海の肩を掴んで自身から引き離した。

「俺は風弓じゃない。人違いだ」

「…風弓」

じっとその眼を覗き込むと、ふいと顔を逸らされる。

「違う、俺はあんたなんか…知らない。此処には風弓なんて名前の奴もいない。どうやって入り込んだか知らないが、他の奴等に見付かる前にさっさと失せろ」

突き放すような物言いだが、全く悲しくはなかった。

今まで生きていたことを隠されていたのだ、きっと対面したとしても拒絶されるだろうと予測はしていた。

寧ろ発言の端々に、極力晴海を傷付けないよう言葉を選んでいるような節さえ見え隠れする。

「風弓が一緒なら、いいよ」

「っ…まだ言うのかよ。俺は風弓じゃない、あんたのことも知らない、此処から出る気も必要もないんだよ!」

青年は晴海の掛ける言葉を振り払うかのように、大きく首を振りながら声を荒げた。