…月虹にやってきた当初、陸のことは正直苦手だった。
月虹の中でも特別扱いされて、いつも父が傍についていて――今思うとそれは父を取られたと考えた嫉妬心だったのだろう。
たまに言葉を交わす機会があっても、何だか人形みたいに生気がなくて掴みどころのない奴で。
だから、陸を逃がしたせいで父がその責任を被って殺されたと聞いたときはどうにかなりそうだった。
何故あんな自分の意思も碌に持たないような奴のために、父は命を捨てる必要があったのかと。
――でも、炎夏で再会した陸はそれまでとは少し変わっていた。
制約の影響で能力が使えないのに、自分のせいで溺れた晴海のために必死になってくれて。
月虹に戻ろうとした自分を懸命に引き留めようとしてくれた。
その上、殺される筈だった自分の命と引き換えに月虹に戻ってきて、洗脳を受けてあんな酷い目にも遭わされた。
今だって春雷のことで手一杯だろうに、晴海のために尽力してくれている。
だから病院で一発殴ってくれと頼まれたときは躊躇したが“晴海を泣かせてしまった”と後悔している陸を見て、自分が出来ることをしてやろうと思い直したんだ。
「俺……俺も、陸がはるちゃんを好きになってくれて、良かったです。…本当に」
「有難う、風弓くん。…良ければこれからもあの子の力になってやってくれるかい?陸は昔から一人で無茶をする癖が抜けなくてね。そんなところ父さんに似なくていいのに…心配なんだ」
+ + +
月虹の中でも特別扱いされて、いつも父が傍についていて――今思うとそれは父を取られたと考えた嫉妬心だったのだろう。
たまに言葉を交わす機会があっても、何だか人形みたいに生気がなくて掴みどころのない奴で。
だから、陸を逃がしたせいで父がその責任を被って殺されたと聞いたときはどうにかなりそうだった。
何故あんな自分の意思も碌に持たないような奴のために、父は命を捨てる必要があったのかと。
――でも、炎夏で再会した陸はそれまでとは少し変わっていた。
制約の影響で能力が使えないのに、自分のせいで溺れた晴海のために必死になってくれて。
月虹に戻ろうとした自分を懸命に引き留めようとしてくれた。
その上、殺される筈だった自分の命と引き換えに月虹に戻ってきて、洗脳を受けてあんな酷い目にも遭わされた。
今だって春雷のことで手一杯だろうに、晴海のために尽力してくれている。
だから病院で一発殴ってくれと頼まれたときは躊躇したが“晴海を泣かせてしまった”と後悔している陸を見て、自分が出来ることをしてやろうと思い直したんだ。
「俺……俺も、陸がはるちゃんを好きになってくれて、良かったです。…本当に」
「有難う、風弓くん。…良ければこれからもあの子の力になってやってくれるかい?陸は昔から一人で無茶をする癖が抜けなくてね。そんなところ父さんに似なくていいのに…心配なんだ」
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