風弓の制止も聞かず、晴海は部屋から飛び出した。

「っ待てよ姉ちゃん、待てって!俺も一緒に行くよっ」

急いで後を追った風弓は、思うように動かない足取りながら必死で晴海に追い付くと、その腕を引ったくるように掴んだ。

「良かった、追い付いた…っ」

「……ふゆちゃん…」

呼吸を整える風弓に、晴海は不安げな声色で訊ねる。

「…うん?」

「わたし、なにかだいじなこと、わすれてる?はやく、おもいださなきゃいけないの?」

「…!」

風弓は晴海に、現状についての説明を殆どしていなかった。

晴海は精神と記憶が六歳まで退行している筈なのに、十六歳である自身や風弓の姿を見ても違和感を訴えない――それを考えると、昔の記憶と今までの記憶が複雑に混同している可能性がある。

ならば余計な説明をして、晴海をこれ以上混乱させてしまうのは気が引けたのだ。

「……上手く思い出せないなら、無理する必要なんかねえよ。姉ちゃんは俺が守るから」

「…………」

すると晴海は、少し不満げな表情のまま風弓の手を引いて歩き出した。

「ふゆちゃん…」

「ん?」

暫く歩いたところで、ふと再び声を掛けられる。