今回の炎夏のように、止むに止まれぬ事情がある場合にだけ変更が許されるということもあり、実際に変更された前列は然程多くない。

それでも父は、もし自分たち兄弟が相続を拒めばその意思を尊重するつもりなのか。

「普段はふざけてばかりで、真面目な話をあんまりしたがらない父さんだけどね…僕が十五になる年に初めてこういう話をしてくれたんだ。きっとお前にも、そうするつもりだった筈だよ」

『――そうだな、陸がもう少し大人になったらな』

確かに、好奇心旺盛だった幼い頃はあれこれと父に訊ねてはそう言い聞かされていた。

それ故に陸は両親の馴れ初めや、兄と自分の母が異なる理由も詳しくは知らなかった。

「父さんは勿論春雷を大切に想ってるし、住民のみんなも父さんを慕ってくれてる。だけど…国のために自分の家族を犠牲にしたって意味がないんだ。だからお前の望まないことなんか絶対させない、そんなの月虹にお前を連れ去られたときと同じだよ」

京は心底悔しそうに拳を握り締める。

「……兄さん」

「まだ具体的な対策が浮かんだ訳じゃない。けど僕は甘いと言われようが、絶対に家族もこの国も守って見せる。お前はお前が成すべきことだけを考えればいいんだ」

京の掌が、まるで周のように少し乱雑に陸の頭を撫でる。

そうして笑った兄の表情は、いつになく父の笑顔に良く似ていた。





錯雑(さくざつ)に付け入る斜光 終.