「…それから父さんがお前を政局から遠ざけてる理由、ずっと話そびれてたね」

「!」

小さな頃から不安で堪らなかった――何故父の仕事を補佐することが、兄は良くて自分は駄目なのか。

成長した今でこそ、兄にはあって自分には欠けている素養の差を理解し始めたものの、もし他にも理由があるのなら聴いてみたい。

「――父さんはね、本当は僕にだって仕事を手伝わせたくないんだ」

「えっ……」

「領主の子に生まれたからって、必ずしも跡継ぎになる必要なんかない。昔から良く父さんは僕にそう言ってたんだ。それでも今の僕が跡取りとして父さんの補佐をしてるのは、父さんを何度も説得したからだよ」

「…!説得…」

「長男だからとか領主としての権力を持ちたいからとかじゃなく、僕は僕の意思で、父さんや春雷のために力を尽くしたいと決めてたんだ。だから、何回断られても認めて貰えるまで頑張った」

全然知らなかった――兄がそんな苦労を経て補佐役を任されていたなんて。

「…そう、だったんだ」

「僕は父さんが大切にする春雷が好きだから、それを受け継いで守ってゆける領主になりたい。だけどもしお前に僕よりも強い意思と覚悟があるのなら、お前が領主を継ぐべきだと思う」

「兄さんを凌ぐだけの、意思と覚悟…」

「それでも父さんに納得して貰うには相当苦労すると思うよ?何せ父さんは領主になることで、沢山苦労してきたからね」

「…父さんは領主になりたくなかったのかな」

「今はともかく…そう思った時期は少なからずあるんじゃないかな。だから僕たちがもし跡継ぎになるのを拒んだら、父さんは迷わず領主選出の制度を変えようとするよ」

八ヶ国の中には国民による投票や、前代による指名で領主が選出される国も存在する。

変更するには領主が集まる会合にてその旨と変更に至った理由を申請し、過半数の合意を得られなければならない。