いとしいこどもたちに祝福を【後編】

「現領主は先代の息子なんだ。良き統治者の子が、良き統治者になるとは限らないってことだよ」

僕も気を付けないとな、と京は小さく溜め息を落とした。

「…京さんなら、大丈夫ですよ。とっても優しくて春雷に住む人たちに慕われてて、凄く頼れる方ですから。きっと周さんに負けないくらい素敵で立派な領主様になります」

ほんの短期間しか京の姿は見ていないが、彼が薄暮の領主のような誤ちを犯すとは思えない。

だからそのまま思った通りの気持ちを、素直に口にしたのだが――京は恥ずかしそうに目を泳がせて俯いてしまった。

「京さん?」

「っ…“父さんみたいに”じゃなく僕個人をそうやって評価してくれる人は案外少ないんだ。だから…嬉しくて」

京はゆっくりと顔を上げて「有難う」と微笑んだ。

普段は大人びて見える京の笑顔が、今は少し幼く見えた。

平時の彼は、父の背中に追い付きたい気持ちと弟を捜し出すための気負いで、常に張り詰めているのかも知れない。

咲良の言う通り、陸を取り戻せれば京の気持ちも少しは和らぐだろうか。

「…さ、そろそろ夜が明けるね。明るくなる前に街に入ろう」

京はまた笑顔を打ち消してしまうと、薄暮の方角を見据えて呟いた。

「は、はい」

――辿り着いた薄暮の街は、夜明け前の静けさに包まれていた。

「…静か、ですね」

「不自然なくらい、人の気配すらしないね」

「そういえば京さん、月虹の詳しい場所って分かるんですか?」