「…周さん、なかなか目を醒まさないみたいだな」

周が倒れたと知らされてから凡そ一日半が経過したものの、依然邸の中は慌ただしいままだった。

「うん…こっちの挨拶どころじゃなくなっちまったのは仕方ないけど、お目に掛かれないまま此処に居座る形になるとはね。流石にあたしも少し居た堪れないぜ」

「……りっくん、おとうさんのおせわでいそがしいよね?あんまりあいにきてくれなくなるかな?」

不安げに俯いてそう呟いた晴海の髪を、仄はやんわりと撫でた。

「どうかね。はるがいい子にしてれば来てくれるんじゃないかな」

「そっかぁ…じゃあわたし、いいこにしてまってる」

――風弓は、晴海と仄と共に邸の庭に散歩に出てきていた。

晴海が庭に咲いている花を見たいと言ったことと、風弓の足の歩行練習を兼ねてのことだ。

「…しっかし、此処んちの跡取りさんはしっかり者で立派だねえ。あたしが今まで見てきた領主子息らとは大違いだよ」

「確かに京さんは頼もしいけど、母ちゃんが知ってる他の領主子息って誰だよ?」

「例えば、一番最近なら炎夏の元馬鹿領主んとこかな。はるが其処の息子に付き纏われてさ、大変だったんだぜ」

「?」

ふと自分の名前が話題に上ったのが不思議そうに、晴海はかくんと首を傾げた。

「…なんだそいつ。今度殴りに行っていいか」

というか、その話、初耳なんだが。

「ああ…あんたこのこと聞いてなかったのか。でももう陸や賢夜が十分仕返ししてくれたみたいだから、いいんじゃない?」

流石にこれ以上やられたら相手も不憫だと、仄はけらけらと一頻り笑い終えてから呟いた。

確かに、もう済んだことならば今更自分が後からどうこう言うことではないだろうが…――