「それで自分の身体壊してちゃあ世話ないよ…馬鹿だな、父さん」

京は愛梨から目を逸らすと、独り言のように言葉を紡ぎながら両手をきつく握り締めた。

そのうちの片方で、ぽすん、と周の胸を力なく叩く。

「…一番馬鹿なのは、傍にいたのに父さんを本気で止めなかった僕だ。父さんはこんなになるまで頑張ってたのに、僕は気付くことも負担を和らげることも…出来なかった」

項垂れる京の肩を、愛梨が優しく抱き締めた。

「…かあさん、りく、ごめん」

愛梨は小さく謝罪する京の言葉に首を振ると、周譲りの白金の髪を優しく撫でた。

「お父さんは、自分の力で貴方の元に戻ってきてくれたのよ…今度だってちゃんと戻ってくるわ」

陸は、うまく言葉を見つけられなくて、握り締められたままの京の左手に自身の右手を添えた。

兄の手は、自分と同じくらい震えていた。





母の喜憂(きゆう)と父の寂寥(せきりょう) 終.