いとしいこどもたちに祝福を【後編】

――まだ朝靄が立ち込める邸の庭園へ、晴海は京と連れ立ってやってきた

「それじゃあ、行こうか。薄暮は本来、春雷からだと船から鉄道を乗り継いで一日半掛かるんだけど…今回は急ぐから強行手段で行くよ」

「強行手段?」

「転移魔法を使うんだ。能力者や魔導士が魔力を介して別の場所に移動する方法だよ。霊媒師は魔力を持たないけど、喚び出した精霊の魔力を借りれば不可能じゃない」

ふと慶夜が焔の渦、雪乃が無数の雷に包まれて姿を消したときのことを思い返した。

それに――陸が自分を時計塔の最上階から地上へ送り届けたときの旋風も、転移魔法だったのだろう。

「能力者は自身の属性の要素を媒介にするんだけど、焔とかは熱くない筈だけど何か見た目が怖いよね」

京が苦笑しながら両手を合わせると、白い光と共に緩やかな風が周囲に巻き起こった。

「まあ、風の力もちょっと運び方が荒っぽいのが難点だけど…春雷で協力して貰うならやっぱり彼らだ。晴海ちゃん、僕にしっかり掴まって。落ちたら大変だよ」

「は、はい」

(…落ち、る?)

もし落ちたら一体どうなるのだろうと思いつつ縋るように京の腕に掴まると、途端に周囲を取り巻く風が息もつけない程に強まった。

「ひゃっ…!」

突風に巻き取られるように周囲の景色が吹き飛んだかと思うと、入れ替わりに見たことのない景色が折り重なってゆく。

それはまるで、特殊加工された映像を眺めているようだった。

完全に景色が入れ替わり終えると、京の両手から溢れていた白光と旋風が少しずつ弱まり始めた。

――ゆっくりと光と風とが弱まってゆくのを見届けてから、京は肩の力を抜いて大きく息をついた。

「よし。晴海ちゃん、もう大丈夫だよ」