「あの子は確かに、守護者に生まれたために一族の重圧下に置かれました。けれどその反面、他の誰にも成り代わることの出来ない力を授かったことに誇りを持っていました。そのことが、あの子にとって唯一の心の支えだったのです。だから…」

「一族や国を捨てても…守護者としての使命は忘れない?」

探るようにそう口にすると、沙也は確信を持って大きく頷いた。

「ええ…ええ!」

「……貴方だけは今でも、彼を信じているんですね」

「…香也が宗家から疎まれるのは私のせい。私は獅道の一族ではなく、平民出身です。義兄(あに)の取り計らいやあの子が守護者でなければ、夫の妻である事実さえなかったことにされていたでしょう」

愛梨と同じ、平民の身――なのに生まれた国が違(たが)っただけで、こうも境遇は変わってしまうのか。

沙也は見たところ余所者などではなく純血の冬霞の人間であり、地の能力者でもあるらしいのに。

それでも一族同士のみでの婚姻に拘る“為来り好きの獅道”の本質を、改めて思い知った気がした。

「香也は、私の全てです。夫との絆も守ってくれた息子に、私は何も返してあげられないけれど…どんなことがあっても私は息子を信じています」

香也と同じ色の、強い意思を宿した紫水晶の眼が真っ直ぐにこちらを見据える。

「あの……えっと、紗也さん」

遠慮がちに名を呼ぶと、紗也は少し驚いたようにその眼を丸くした。

「…俺は、自分の力が嫌いでした。今までずっとこの力のせいで不幸になったと思っていたから。けど…香也はいつだって自分の力を絶対的に信じてる。何故そんなに自信を持てるのか不思議でしたけれど…」

何のために力を持って生まれたか、知っていること。

何も知らずに色々と歯痒い想いをした身としては少し羨ましく思えたが、それ故に香也は自分とは違った苦しみを強いられてきたのか。

それでも前に進めるのは、どんなときでも必ず己を信頼してくれる人がいるからだと、知っているからではないだろうか。

「貴方が信じていてくれるから、香也は迷わずにいられるんだと思います。俺の勝手な憶測だけど、貴方の話を伺ったら…そんな気がしました」