そうして通路を真っ直ぐ進むと、岩肌を切り出した神殿のような邸が見えてくる。
その邸内に入った瞬間、少し空気の色が変わったような気がした。
押し黙ったまま人気のない長い廊下を抜け、奥に玉座のように大きな肘掛け椅子が置かれた部屋に通される。
「旦那様、霊奈家の御子息様をお連れ致しました」
傍らの男が一歩手前で跪き、まだ誰も座していない椅子に向けて頭を垂れた。
「――ご苦労。下がって良いぞ」
すると姿は見えないが、前方から低く嗄(しわが)れた男の声だけが部屋に響いた。
「…?!」
案内役の男は頭を下げたまま立ち上がり、陸を残して部屋を立ち去った。
「…本当に一人でやって来たか。ああ言えば怖じ気付くかと思ったが、存外肝が据わっているのか――はたまた単なる考え無しか」
椅子の両脇に据えられた燭台に独りでに火が灯り、先程までは其処になかった筈の声の主の姿を照らし出した。
――其処に現れたのは落ち着いた雰囲気を纏う、顎髭を蓄えた初老の男性だった。
こちらを見下ろす鋭い藍色の眼に、陸は慌てて首を垂れた。
「貴方が、獅道の…」
「左様。この冬壌の領主、獅道一族宗家が長、獅道 香住(かすみ)。霊奈の次男坊…そなたは確か、陸と申したか」
「はい」
「成程、霊奈の若造――とは言っても今やそなたの父か…父に良く似た面構えだ」
初対面の相手に父と似ているなんて言われたのは初めてで、少し胸が高鳴った。
その邸内に入った瞬間、少し空気の色が変わったような気がした。
押し黙ったまま人気のない長い廊下を抜け、奥に玉座のように大きな肘掛け椅子が置かれた部屋に通される。
「旦那様、霊奈家の御子息様をお連れ致しました」
傍らの男が一歩手前で跪き、まだ誰も座していない椅子に向けて頭を垂れた。
「――ご苦労。下がって良いぞ」
すると姿は見えないが、前方から低く嗄(しわが)れた男の声だけが部屋に響いた。
「…?!」
案内役の男は頭を下げたまま立ち上がり、陸を残して部屋を立ち去った。
「…本当に一人でやって来たか。ああ言えば怖じ気付くかと思ったが、存外肝が据わっているのか――はたまた単なる考え無しか」
椅子の両脇に据えられた燭台に独りでに火が灯り、先程までは其処になかった筈の声の主の姿を照らし出した。
――其処に現れたのは落ち着いた雰囲気を纏う、顎髭を蓄えた初老の男性だった。
こちらを見下ろす鋭い藍色の眼に、陸は慌てて首を垂れた。
「貴方が、獅道の…」
「左様。この冬壌の領主、獅道一族宗家が長、獅道 香住(かすみ)。霊奈の次男坊…そなたは確か、陸と申したか」
「はい」
「成程、霊奈の若造――とは言っても今やそなたの父か…父に良く似た面構えだ」
初対面の相手に父と似ているなんて言われたのは初めてで、少し胸が高鳴った。


