「――さむっ」
冬霞の地に降り立って、真っ先に自然と口を突いたのは、そんな言葉だった。
年間の殆どが雪と氷に閉ざされた極寒の山岳地帯――冬霞についてそう認識していたため、しっかり防寒してきたつもりだったがそれでも足りないくらいだ。
だが、見渡す限り広がる一面の雪景色に、陸は少し感動しそうになっていた。
髪や肌の白さを良く雪に喩えられることの多い陸だが、実は雪を見るのは今回が初めてである。
名の通り一年を通して春の陽気に包まれている春雷では、多少の気温の変化はあるものの雪が降ることはまずない。
「凄いな、膝まで雪に埋まりそうだ」
寒さも忘れてうっかり童心に還ってしまいそうな気持ちを抑え、陸は冬霞の都心部へと向かった。
都心と言っても、目前に広がる景色には人影はおろか街並みすら見当たらない。
冬霞の住民はこの極寒の気候から逃れるため、地下へ潜り都市を築いたのだ。
中にはそのまま地上で暮らす集落もあるらしいが、冬霞の中心部はこの地の下にある。
陸が地下都市へと降りるための建物へ足を踏み入れると、入口近くに立っていた男が近付いてきて恭しく一礼した。
「霊奈家御子息の――陸様、ですね。御待ちしておりました、どうぞこちらへ」
「…どうも」
男に導かれ、陸は一般利用者とは別の昇降機に乗り込んだ。
使いの男は気配を探る限り、どうやら魔導士でも能力者でもなさそうだが、暫くこの狭い機内に二人きりとなると少し警戒してしまう。
「この国にいらっしゃるのは初めてでございますか?」
「え…ああ、まあ」
冬霞の地に降り立って、真っ先に自然と口を突いたのは、そんな言葉だった。
年間の殆どが雪と氷に閉ざされた極寒の山岳地帯――冬霞についてそう認識していたため、しっかり防寒してきたつもりだったがそれでも足りないくらいだ。
だが、見渡す限り広がる一面の雪景色に、陸は少し感動しそうになっていた。
髪や肌の白さを良く雪に喩えられることの多い陸だが、実は雪を見るのは今回が初めてである。
名の通り一年を通して春の陽気に包まれている春雷では、多少の気温の変化はあるものの雪が降ることはまずない。
「凄いな、膝まで雪に埋まりそうだ」
寒さも忘れてうっかり童心に還ってしまいそうな気持ちを抑え、陸は冬霞の都心部へと向かった。
都心と言っても、目前に広がる景色には人影はおろか街並みすら見当たらない。
冬霞の住民はこの極寒の気候から逃れるため、地下へ潜り都市を築いたのだ。
中にはそのまま地上で暮らす集落もあるらしいが、冬霞の中心部はこの地の下にある。
陸が地下都市へと降りるための建物へ足を踏み入れると、入口近くに立っていた男が近付いてきて恭しく一礼した。
「霊奈家御子息の――陸様、ですね。御待ちしておりました、どうぞこちらへ」
「…どうも」
男に導かれ、陸は一般利用者とは別の昇降機に乗り込んだ。
使いの男は気配を探る限り、どうやら魔導士でも能力者でもなさそうだが、暫くこの狭い機内に二人きりとなると少し警戒してしまう。
「この国にいらっしゃるのは初めてでございますか?」
「え…ああ、まあ」


