いとしいこどもたちに祝福を【後編】

「…姉ちゃん、陸のこと好きか?」

陸が周に呼ばれて席を外した際、風弓は姉にそれとなくそう訊ねてみた。

すると晴海は少し恥ずかしそうに頬を赤らめながら頷く。

「……うん、すき…」

「陸のこと、どのくらい好きだ?俺や親父や母ちゃんよりも、好きか?」

「…おんなじ、くらい」

やはり、完全に記憶が十年前まで遡った訳ではないかも知れない。

あの頃の晴海は、家族以外の人間とは会話をするのも一苦労だった――こんな風に、家族と同程度の好意を寄せる程に他人へ興味を示したことはない。

「じゃあ、愛梨さんは?」

「えっとね……りっくんとおんなじくらい、すき」

それとも愛梨が偶然、或いは彼女特有の柔和な気質が晴海の警戒心を解くのに成功しただけなのだろうか。

「姉ちゃんは陸や愛梨さんの、どんなところが好きだ?」

「……わたしのはなし、ちゃんときいてくれる」

「へぇ」

「……とうさんやかあさんやふゆちゃんみたいに、ちゃんとわたしのはなし、ゆっくりきいてくれるの。ほかのひとは、わたしがしゃべるのおそいせいで…わたしのはなし、きいてくれない」

確かに、幼い頃の晴海は稀に他人と接する機会があったとしても、会話が続いた試しがなかった。

大抵の人は、話し掛けても両親の陰に隠れてなかなか喋ろうとしない晴海に痺れを切らし、話を先に進めたり会話自体を断念してしまう。

実際は緊張して上手く言葉が出て来ず、回答を考えるのに時間が掛かっているだけなのだが。