「その冬霞に、近々行けることになったよ」

「…!それって、さっき言ってた話の…獅道の当主に、逢いに行くんだよな」

「うん。日程の調整がつき次第、なるべく早めに行こうと思ってる」

すると上着の袖口を晴海につい、と引っ張られた。

「りっくん……どこかいっちゃうの?」

不安げにこちらを見上げてくる晴海を、陸は安心させるように微笑んで見せる。

「大丈夫、すぐに帰ってくるよ。けどちょっとだけ留守にするから、その間だけ良い子で待っててくれるか?」

「…ほんとに?……いなくなったりしない?」

両親の不在故にか、それとも充や風弓がいなくなったときのことを潜在的に覚えているのか。

晴海は、気を許した人間が自分の傍から“いなくなる”ことをやけに恐れる。

先程も愛梨が諸用で一旦席を外すことになった際に、やはり晴海は頻りに愛梨が戻ってくるか訊ねていたらしい。

「うん、ちゃんと帰ってくるよ。俺の母さんや風弓、それに夕夏や兄さんはずっと晴の傍にいるから、な?」

「………わかった…」

晴海は素直に頷いたが、その言動とは裏腹に、陸の腕へ縋るようにしがみ付いてきた。

「…冬霞には京さんと一緒に行くんじゃないのか?」

訝しげにそう訊ねてきた風弓に、陸は少し声の調子を落とした。

「冬霞へは、俺一人で行かなきゃならない。それが、向こうの領主から出された条件なんだ」

「?!っ大丈夫なのか、それ…!」