いとしいこどもたちに祝福を【後編】

「あ……、えっと、りっくん」

――晴海と母の様子を伺いに顔を覗かせると、その碧い眼と目が合った瞬間そう呼び掛けられた。

「……母さん?晴に何教えたの」

それは自分が幼い頃に、周囲から呼ばれていた愛称ではないか。

「貴方が小さな頃のお話よ。ね、晴海ちゃん?」

愛梨はくすりと笑って晴海と顔を見合わせた。

「うん!りっくんのおはなし、たのしかったよ」

一体どんな話をしたのか、というのもなかなか気になるところではあるが。

「ごめん、晴…恥ずかしいからりっくんはちょっと……」

久しく耳にしていなかったその呼ばれ方は、何だか気恥ずかしくてくすぐったい。

すると晴海は不満げに膨れると、少々恨めしげにこちらを見つめた。

「……はるってよんでもいいの、わたしのかぞくだけだよ?」

「!…ごめん」

(そうだったのか…そういえば俺、充さんがそう呼んでるのを聞いてたからつい同じように呼んでたんだよな)

確かに晴海の家族以外で、彼女を愛称で呼んでいるのを聞いたことがない。

炎夏で交流のあった人々ならばすぐにでも愛称で呼んでくれそうなものだが、晴海は敢えて家族以外にはそう呼ばせないようにしていたのだろうか。

しかし自分は、今まで晴海から呼び名の件で咎められたことはなかった。

その事実にちょっとした優越感を感じつつ、今更呼び方を改めるのは難しい上に寂しくもあるが――今は仕方ない、か。