「先代からの受け売りだけどな、俺は身分や種族の違いから起こる差別や諍(いさか)いをなくしたいんだ。それで春雷が誰にでも住みやすい国になるなら、古い習慣や思想が失われるのもある程度なら仕方ないと思ってる」

古くからの習わしを守り頑な獅道と、型に囚われず風習を捨てた霊奈。

何方が良いか悪いかなんて、一概には言えはしない。

「ただ…今回はそのせいで不利な状況になっちまったかも知れないってことだよな」

「やっぱり香也は、晴の能力のことで獅道には残ってる伝承があるって言いたいのかな…」

「…だとしたら、獅道から情報を得るのは難しいぞ。向こうは元々秘密主義の上、うちが協力を持ち掛けても応じてくれそうにない。現にお前が生まれたときが、そうだったからな」

そうか――周だって息子の体質を調べる際に、魔力に関して詳しい獅道を当たっていない筈がない。

獅道には何か情報があると解っていながら、其処から得られるものがないなんて。

「…参ったな、八方塞がりだ」

「もう一度、うちで可能な限りの手を尽くすしかないさ。まあ耄碌(もうろく)してるご先祖たちから昔話を聞き出すのは一苦労なんだけどな」

ご先祖、というのは歴代の春雷の領主たちの霊魂のことらしい。

しかし所謂幽霊でも、耄碌というのはするものなんだろうか。

「ああ、それから風弓く…」

「――ふゆちゃん、どこ…っ?!」

「!」

そのとき、晴海の不安げな声が背に突き刺さった。

どうやら目を覚ましたら、自分の姿が見当たらないので驚いたらしい。

「姉ちゃん…っ」